説話① 収録作品&本文

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【大江山】※「大江山いくのの道」「小式部内侍と大江山の歌」→口語訳・品詞分解・練習問題が必要な人は注文ページへ!

 和泉式部、保昌が妻にて丹後に下りけるほどに、京に歌合ありけるに、小式部内侍、 歌よみにとられてよみけるを、定頼中納言、たはぶれて、小式部内侍、局にありけるに、「丹後へつかはしける人は参りにたるや、いかに心もとなく思すらん」と言ひ入れて、局の前を過ぎられけるを、小式部内侍、御簾よりなからばかり出でて、わづかに直衣の袖をひかへて、

大江山いくのの道の遠ければまだふみもみず天の橋立

 とよみかけける。

 思はずにあさましくて、「こはいかに、かかるやうやはある。」とばかり言ひて、返歌にも及ばず、袖を引き放ちて逃げられにけり。

 小式部、これより、歌詠みの世におぼえ出で来にけり。

 これはうちまかせて、理運のことなれども、かの卿の心には、これほどの歌、ただいま詠み出だすべしとは、知られざりけるにや。

【絵仏師良秀】※「絵仏師良秀、家の焼くるを見て喜ぶこと」→口語訳・品詞分解・練習問題が必要な人は注文ページへ!

 これも今は昔、絵仏師良秀といふありけり。家の隣より、火出できて、風おしおほひて、せめければ、逃げ出でて、大路へ出でにけり。人の書かする仏もおはしけり。また、衣着ぬ妻子なども、さながら内にありけり。それも知らず、ただ逃げ出でたるをことにして、向かひのつらに立てり。

 見れば、既に我が家に移りて、煙・炎、くゆりけるまで、おほかた、向かひのつらに立ちて、眺めければ、「あさましきこと」とて、人ども、来とぶらひけれど、騒がず。

「いかに。」と、人、言ひければ、向かひに立ちて、家の焼くるを見て、うちうなづきて、「あはれしつるせうとくかな。年ごろは、わろく書きけるものかな。」と言ふときに、とぶらひに来たる者ども、「こはいかに、かくては立ちたまへるぞ。あさましきことかな。もののつきたまへるか。」と言ひければ、「なんでふもののつくべきぞ。年ごろ、不動尊の火炎をあしく 書きけるなり。今見れば、かうこそ燃えけれと、心得つるなり。これこそせうとくよ。この道を立てて世にあらむには、仏だによく書きたてまつらば、百千の家も出で来なむ。わたうたちこそ、させる能もおはせねば、ものをも惜しみ給へ。」と言ひて、あざ笑ひてこそ立てりけれ。

 その後にや、良秀がよぢり不動とて、今に、人々、めで合へり。

【児のそら寝】※「児の、かいもちひするにそら寝したること」→口語訳・品詞分解・練習問題が必要な人は注文ページへ!

 これも今は昔、比叡の山に児ありけり。僧たち宵のつれづれに、「いざかいもちひせん」と言ひけるを、この児心寄せに聞きけり。「さりとて、し出さんを待ちて寝ざらんもわろかりなん」と思ひて、片方に寄りて寝たるよし にて、出で来るを待ちけるに、すでにし出したるさまにて、ひしめき合ひたり。

 この児、「定めて驚かさんずらん」と待ちゐたるに、僧の、「物申し候はん。驚かせ給へ」と言ふを、うれしとは思へども、「ただ一度にいらへんも、待ちけるかともぞ思ふ」とて、「今一声呼ばれていらへん」と念じて寝たるほどに、「や、な起し奉りそ。幼き人は寝入り給ひにけり」といふ声のしければ、あなわびしと思ひて、「今一度起せかし」と思ひ寝に聞けば、ひしひしとただ食ひに食ふ音のしければ、すべなくて、無期の後に、「えい」といらへたりければ、僧たち笑ふ事限りなし。

【検非違使忠明】※「検非違使忠明のこと」→口語訳・品詞分解・練習問題が必要な人は注文ページへ!

 これも今は昔、 忠明といふ検非違使ありけり。若男にてありける時、清水の橋殿にして、京童部といさかひをしけり。京童部、刀を抜きて、忠明を立てこめて殺さむとしければ、忠明も刀を抜いて、御堂の方ざまに逃ぐるに、御堂の東の端に、京童部あまた立ちて向かひければ、その傍らにえ逃げずして、蔀のもとのありけるを取りて、脇に挟みて、前の谷に躍り落つるに、蔀のもとに風しぶかれて、谷底に鳥のゐるやうに、やうやう落ち入りにければ、 そこより逃げて去にけり。京童部、谷を見下ろして、あさましがりてなむ立ち並みて見ける。忠明、京童部の刀を抜きて立ち向かひける時、 御堂の方に向きて、「観音助け給へ。」と申しければ、ひとへにこれその故なりとなむ思ひける。忠明が語りけるを聞き継ぎて、かく語り伝へたるとや。

【袴垂、保昌に会ふこと】※「袴垂と保昌」→口語訳・品詞分解・練習問題が必要な人は注文ページへ!

 昔、袴垂とて、いみじき盗人の大将軍ありけり。十月ばかりに、衣の用なりければ、衣少し設けんとて、さるべき所々窺ひ歩きけるに、夜中ばかりに、人皆静り果てて後、月の朧なるに、衣あまた着たりける主の、指貫のそばはさみて、絹の狩衣めきたる着て、ただ一人、笛吹きて、行きもやらず練り行けば、あはれ、これこそわれに衣得させんとて出でたる人なめりと思ひて、走り掛かりて、衣を剥がんと思ふに、怪しく物の恐ろしく覚えければ、添ひて、二、三町ばかり往けども、我に人こそ付きたれと思ひたる気色もなし。

 いよいよ笛を吹きて往けば試みんと思ひて、足を高くして走り寄りたるに、笛を吹きながら見返りたる気色、取り懸かるべくも覚えざりければ、走り退きぬ。

 かやうに数多度、とざまかうさまにするに、つゆばかりも騒ぎたる気色なし。希有の人かなと思ひて、十余町ばかり、具して行く。さりとてあらんやはと思ひて、刀を抜きて走り掛かりたる時に、その度、笛を吹きやみて、立ち返りて、「こは何者ぞ」と問ふに心も失せて、我にもあらでつい居られぬ。また、「いかなる者ぞ」と問へば今は逃ぐともよも逃がさじと覚ければ、「引剥に候ふ」と言へば、「何者ぞ」と問へば、「字袴垂となん言はれ」候ふと答ふれば、「さ言ふ者ありと聞くぞ危げに希有の奴かな」と言ひて、「共に参で来」とばかり言ひ掛けて、また同じやうに、笛吹きて行く。

 この人の気色、今は逃ぐとも、よも逃さじと覚ければ、鬼に神取られたるやうにて、共に行くほどに、家に行き着きぬ。何所ぞと思へば、摂津前司保昌と言ふ人なりけり。家の内に呼び入れて、綿厚き衣一つを給はりて、「衣の用あらん時は、参りて申せ。心も知らざらん人に取り掛かりて、汝あやまちすな」とありしこそ、あさましく、むくつけく、恐ろしかりしか。いみじかりし人の有様なり。捕へられて後語りける。

【阿蘇の史、盗人に会ひて謀もて逃れたる話】※「阿蘇の史」→口語訳・品詞分解・練習問題が必要な人は注文ページへ!

 今は昔、阿蘇の某と云ふ史ありけり。丈短なりけれども、魂はいみじき盗人にてぞありける。家は西の京にありければ、公事ありて内裏に参りて、夜ふけて家に帰りけるに、東の中の御門より出でて車に乗りて、大宮下りにやらせて行きけるに、着たる装束を皆解きて、片端より皆たたみて、車の畳の下にうるはしく置きて、其の上に畳を敷きて、史は冠をし、したうづをはきて、裸になりて車の内に居たり。

 さて二条より西様にやらせて行くに、美福門のほどを過ぐる間に、盗人、傍らよりはらはらと出で来ぬ。車のながえにつきて、牛飼童を打てば、童は牛を棄てて逃げぬ。車の後に雑色二三人ありけるも、皆逃げて去り去りにけり。盗人寄り来たりて、車の簾を引開けて見るに、裸にて史居たれば、盗人、あさましと思ひて、「こはいかに。」と問へば、史、「東の大宮にて、かくの如くなりつる。君達寄り来て己が装束をば皆召しつ。」と、笏を取りて、よき人に物申すやうにかしこまりて答へければ、盗人笑ひて棄てて去にけり。其の後、史、声をあげて牛飼童をも呼びければ、皆出で来にけり。それよりなむ家に帰りにける。

 さて妻にこの由を語りければ、妻のいはく、「其の盗人にもまさりたりける心にておはしける。」と云ひてぞ笑ひける。まことにいとおそろしき心なり。装束を皆解きて隠し置きて、しか云はむと思ひける心ばせ、さらに人の思ひ寄るべき事にあらず。この史は、極めたる物云ひにてなむありければ、かくも云ふなりけりとなむ語り伝へたるとや。

【小野篁、広才のこと】→口語訳・品詞分解・練習問題が必要な人は注文ページへ!

 今は昔、小野篁といふ人おはしけり。嵯峨帝の御時に、内裏にふだをたてたりけるに、無悪善と書きたりけり。帝、篁に、「よめ」と仰せられたりければ、「読みは読み候ひなん。されど恐れにて候へば、え申さぶらはじ」と奏しければ、「ただ申せ」と、たびたび仰せられければ、「さがなくてよからんと申して候ふぞ。されば君を呪ひ參らせて候ふなり」と申しければ、「おのれ放ちては、誰か書かん」と仰られければ、「さればこそ、申し候はじとは申して候ひつれ」と申すに、帝、「さて、何も書きたらん物は、よみてんや」と、仰せられければ、「何にても、読み候ひなん」と申しければ、片仮名の子文字を十二書かせて、給ひて、「読め」と仰せられければ、「ねこの子のこねこ、ししの子のこじし」と読みたりければ、帝ほほゑませ給ひて、事なくてやみにけり。

【孝孫】→口語訳・品詞分解・練習問題が必要な人は注文ページへ!

 漢朝に元啓といふ者ありけり。年十一の時、父、妻がことばにつきて、年たけたる親を山にすてんとす。元啓しきりにいさむれども用ゐずして、元啓とふたり、あからさまに手輿を作りて、持ちて深山の中にすてつ。元啓此の輿をもちて帰らんといふに、父、今は何にせんぞ、すてよといふ時、父の年老いたらん時、又もちてすてんずるためなりといふ。その時父心づきて、我父をすつることまことにあしきわざなり。是をまなびて我をすつること有りぬべし。由なきことをしつるなるべしと思ひ返して、父を具して帰りてやしなひける。

 このこと天下に聞こえて、父を教え祖父を助けたる孝養の者なりとて、孝孫とぞいひける。いとけなき心中に、父を教へ、智恵深かりけること、まめやかの賢人なり。

【数寄の楽人】※「時光・茂光の数寄天聴に及ぶ事」→口語訳・品詞分解・練習問題が必要な人は注文ページへ!

 中ごろ、市正時光といふ笙吹きありけり。茂光といふ篳篥師と囲碁を打ちて、同じ声に裹頭楽を唱歌にしけるが、おもしろくおぼえけるほどに、内よりとみのことにて時光を召しけり。

 御使ひ至りて、この由を言ふに、いかにも、耳にも聞き入れず、ただもろともにゆるぎあひて、ともかくも申さざりければ、御使ひ、帰り参りて、この由をありのままにぞ申す。いかなる御戒めかあらむと思ふほどに、「いと、あはれなる者どもかな。さほどに楽にめでて、何ごとも忘るばかり思ふらむこそ、いとやむごとなけれ。王位は口惜しきものなりけり。行きてもえ聞かぬこと。」とて、涙ぐみ給へりければ、思ひのほかになむありける。

 これらを思へば、この世のこと思ひ捨てむことも、数寄はことにたよりとなりぬべし。

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